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ビズテク塾 【成果主義の誤解を解く】 (6) 社員参加で制度改革

日経産業新聞2004年12月7日 22面
執筆者:桑畑 英紀

 成果主義の下、貢献度に応じて与える「報酬」は金銭的報酬だけではない。適正な金銭的報酬の配分は、基礎的条件にすぎず、金銭だけで有能な人材を動機づ けし続けるのは難しい。そこで重要になるのが、個人として企業に雇用される力・価値、すなわち「エンプロイアビリティ」だ。チャレンジングな仕事を任せる ことなどによってエンプロイアビリティの強化を支援することも報酬の一要素だ。

人材と会社は対等

 これからの人材マネジメントでは、人材は経営資源として会社に従属するのではなく、独立・自律の存在でなくてはならない。人材と会社は完全に対等の立場 で相互に作用し合う関係であり、人材は健全な流動性を持ち、自らのキャリア形成を自己責任において実現する。会社は従業員の自己啓発に対する支援や、キャ リア形成のための仕事の機会を提供することを通じて、従業員のエンプロイアビリティの向上を促進する。能力を高めた社員がチャレンジングな仕事を達成する ことは企業の業績向上に直結する。

  我々に寄せられる依頼の中には、「成果主義の人事制度に改訂したが、うまくいかない。何とかしてほし い」という内容が少なくない。そんな会社に人事制度改訂はどう実施したのかを聞くと、多くのケースでもっぱら人事部が改訂作業を実施したという答えが返っ てくる。人事制度運用の要となる管理職や一般社員の巻き込みなどが行われているケースはほとんどない。当事者不在の改訂プロセスでは「なぜそのような改訂 が必要なのか」「新しい制度の本質的な目的は何か」といった基本的な認識さえ醸成されていない。

  日系メーカーB社では、四年前に成果主 義の人事制度改訂を実施した。コンサルティング会社を雇い、人事部主導で職務主義、コンピテンシー(行動特性)、目標管理など一通りの成果主義ツールが導 入された。約一年をかけて行われた改訂プロセスの間も、制度が完成して全社説明会が開催されるまで社内に情報が開示されることはなかった。その後、運用し ていくにつれ、管理職や一般社員から不満が噴き出すようになった。制度そのものには特に問題は見当たらない。原因は、運用の要となる管理職の当事者意識で あり、社員の受け入れ土壌の問題だった。

改定作業を社内開示

 今、B社では部門横断的に組織されたクロスファンクショナルチームが人事制度の再見直しに取り組んでいる。各部門から参加するメンバーを通じて、職場の 管理職や社員の巻き込みが行われ、イントラネットを通じて改訂検討状況は全社員に共有されている。人事部門も我々コンサルタントも完全にサポート役に徹 し、押し付けがましく「答」を差し出すことはしない。「美しく完璧な制度にはならないかもしれないが、自分たちで作った制度であるという意識を持てれば、 運用の中で皆が進んで制度の欠点をカバーするはず」。あるメンバーの言葉が印象的だった。

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