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ビズテク塾 【成果主義の誤解を解く】 (5) 日本型システムの問題

日経産業新聞2004年12月2日 22面
執筆者:桑畑 英紀

 戦後の日本経済を支えてきた日本型雇用システムに特徴的な賃金カーブは、一般にS字型である。この賃金カーブは、成果や貢献度とはリンクしておらず、若 いうちは成果・貢献に比べて低い賃金に甘んじなければならない一方、三十代後半から四十代を経て伸びてくる賃金は、やがて成果・貢献を上回り、いわゆる後 払い賃金を受け取る。視点を変えれば、終身雇用と年功序列がこのような日本型賃金支払いを支えていたとも言える。終身雇用の約束があってはじめて後払いが 可能だったし、成果や貢献度と直接にリンクしない賃金は、年功序列による一律の賃金決定方式が不可欠だった。

社員を縛るシステム

  「作れば売れる」高度成長時代には、革新的な人材に対するニーズより、いわれたことをきちんとやる勤勉な社員が必要だった。拡大を続ける企業にとっ て、若年労働力の囲い込みと、いったん採用した社員の定着率の向上が至上命題となっていた。そしてS字型を典型とする日本型の賃金支払いシステムは、労働 力の流動化を抑制し、企業の中に囲い込むことに役立った。社員としても、会社に入ってからは、安定した長期雇用と能力や貢献度に左右される不安も少ない一 律処遇が保証されることにメリットを見いだしていた。

  年功制を基本とした日本的システムは終身雇用を保証するというと聞こえはいいが、 見方を変えれば社員を縛り付けるシステムでもあった。一方、今やアジル・コンペティション(俊敏な競争)といわれる時代を迎え、企業組織そのものに「俊敏 さ」「柔軟性」あるいは「革新性」が求められるようになっている。激しい競争下では、それぞれの組織メンバーによる自己責任に基づいた自律的行動が必要に なる。

  従来の日本型組織の強みは、長期雇用と年功的処遇の保証に、その存立基盤を置いてきた。そこには、画一的管理で容易にベクトル合 わせが可能で、決められたことを決められた通りに従順・勤勉に遂行していく社員の姿があった。また、従来の日本型組織の風土では、組織への強い忠誠心や共 同体意識が内向きの力を生みやすい。変革を望まない安定志向と守りの姿勢に支配される組織風土へと変質する危険性を内包しているとも言える。しかし、これ からの組織には、革新性や柔軟性に加え、社員一人ひとりに会社と独立対等の自律的存在であることが求められる。従来の日本型組織の特性や風土は、新しい自 立型組織に本質的になじまない。これは、かつての日本型組織の強みがもはや通用する時代ではなくなっていることを意味する。

終身雇用も存続可能

 では、成果主義を基本とする雇用システムは終身雇用を否定するものなのか。答えはNOである。成果主義はあくまでも自律と自己責任を原則とするものであ り、一定の成果をあげ会社に貢献している限り、会社に残って活躍し続けることも選択肢のひとつだ。成果主義のもとで結果的に終身雇用となることも十分にあ り得る。

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