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ビズテク塾 【成果主義の誤解を解く】 (3) 目標管理が成否を左右
日経産業新聞2004年11月30日 26面
執筆者:桑畑 英紀
成果主義の誤解の一つに、成果主義はチームワークを阻害し、セクショナリズムを助長するというのがある。「社員間、部門間の協力が評価されないため、社 員や部門に閉じた仕事だけに注力する」というのが理由とされる。確かに、成果主義が誤った形で運用されている例には、指摘通りの会社も多い。他の社員や部 門との連携を必要とする目標は達成が難しいからだ。しかし、本来の成果主義では、全社の目標を効果的かつ効率的に達成するため、困難でも社員間、部門間相 互の連携や相乗効果を必要とする目標を設定する。連携に伴う目標の困難度は重要な評価要素と位置づけられる。
短期と長期に目配り
適切な目標管理のために活用されるのが「バランスドスコアカード」だ。成果目標を「財務」「顧客」「社内業務プロセス」「組織・人材の学習と成長」の四 つの視点で設定する。この枠組みを活用し、「財務と非財務」「短期と長期」「過去と将来」、そして「外部と内部」のバランスの取れた目標管理を目指す会社 も増えている。
成果主義を巡っては、社員個人の業績ばかりを追求し、部下や後進に対する職場内訓練をしなくなる危惧(きぐ)を指摘する声があ る。目先の業績を優先するあまり、一時的に生産性や効率の低下を伴う変革や抜本的な生産性向上に取り組まなくなるという不安もあるようだが、いずれも誤解 だ。
人材育成やその結果としての組織強化は重要な成果の一つであり、バランスドスコアカードでも、設定すべき目標として重視される。また、成果 主義の定義にはどこにも短期志向を基本とする考え方は見当たらない。すでに、多くの企業がこの過ちに気付き、中長期的な成果目標を策定した上で、単年度の 目標はその過程におけるマイルストーンとして達成を目指すような運用へと改善を加えている。
貢献度に応じて処遇
さらに、成果主義は 人件費削減を目的とした経営者の論理であるという見方も間違っている。我々もこれまで数多くの会社で成果主義の導入を支援してきたが、人件費総額の削減を 目的に成果主義を導入したいという経営者には会ったことがない。目的はあくまでも貢献度に応じた適正配分であり、それによって会社の組織力を高め全体のパ イを拡大することである。人件費総額を削減するには、もっと別の方法が適していることは経営者自身がよく分かっている。成果に応じて人件費を再配分したと ころで、総額の削減には大した効果は期待できない。
そもそも成果主義は「組織や社員それぞれの貢献度に応じて処遇すること」であり、頑張って大 きな貢献をした人や組織には手厚い処遇で報いることが目的だ。「やってもやらなくても同じ」という悪平等システムのなかで鬱々(うつうつ)としてきた社員 の大きな期待を担うものであり、決して経営者の一方的論理ではない。現に、多くの企業で社員側から、成果主義を求める声が上がっている。